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みどりの通信 2022年6月号 シン・ジャガイモの思い出/アブラムシペタペタ大作戦

シン・ジャガイモの思い出

 新にんにく。新玉ねぎ。新じゃがいも。春から初夏にかけて、ずんずん出てくる新シリーズ。どれも貯蔵が効くのでいつでもあるように思えますが、熟成したどっしり重厚なものとは違う、軽やかでみずみずしい味わいが楽しめるのは、「新」がつく春から初夏のいまだけです。

 新じゃがいもで思い出すのは、就農前、家庭料理の取材で熊本県南関町の農家を訪ねたときのこと。

 取材の目的は、海苔の代わりに「南関あげ」という大きな油揚げですし飯と具を巻いた「南関あげ巻きずし」(太巻きずしのような見た目)の撮影。料理を撮り終わってさあ試食という段で一緒に出してもらったのが、てりてりした茶色い玉がたくさん入った一皿でした。

 これは何だろうと食べてみると、口の中でぷちっと外側の皮がはじけて、中身はもっちりしっとりした舌ざわり。甘辛い醤油味のしみたチビじゃがの煮っころがしでした。

 聞くと家でとれたチビじゃがを、南関あげの煮汁で味がしみるまでよく煮たのだそう。南関あげは、巻きずしの具にする椎茸やかんぴょうを煮た後の煮汁で炊いているので、それらのうま味もよく出ています。油揚げの油によってコクも加わり、何とも言えない絶妙な味。巻きずしそのものももちろんおいしかったのですが、すしをつくるときに出た煮汁で、家にあったじゃがいもを煮るという突発的なその料理がびっくりするくらいおいしかった。

 名前をつけるとしたら「南関あげ巻きずしの煮汁でつくったチビじゃがの煮っころがし」でしょうか?(長!) 工程が複雑すぎて、同じものをつくるのは難しいですが、記憶に残る家庭ならではの料理でした。

 当時はデスクワークが基本で、季節を感じることが少なく、取材がいつだったかもうろ覚えなのですが、あの食感は間違いなく新じゃがのそれ。初夏だったのだなと農家になってようやく季節と味が結びつきました。(照手)

 

◎思い出の煮っころがしに近い味を簡単につくれないものかとキタアカリのチビじゃがでつくってみました。いもをごま油でころころ炒め、油が回ったところでだし汁、醤油、砂糖を入れてよく煮詰めてできあがり。つくってから少し時間をおくと味がしみておいしいです。大きめのじゃがいもは半分か4分割にしてから炒めるとよいです。

 

アブラムシペタペタ大作戦

 春から初夏にかけて同じくずんずん出てきてしまうのがアブラムシです。こいつがいなけりゃどれだけ有機農業がラクになるか…。

 先輩農家に聞くと、今年は特に多いとか。例にもれず、みどりのの畑でも白菜、セロリ、ピーマンに発生しています。若葉にたかって養分を吸い、植物を弱らせたり病気を運んだり、挙句の果てに枯死させる、厄介な輩です。

 恐るべきはその繁殖力。あたたかい季節になると、メスのアブラムシが交尾をせずにメスの子ども(クローン)を産み、オスとの出会いや交尾、卵の孵化にかかる時間を短縮して、じゃんじゃん繁殖します。お腹の中には複数の子どもを宿し、その子どものお腹にも、孫、ひ孫が宿っているという、まるでマトリョーシカのようなやつです。

 さらにはお尻から甘いおしっこ(甘露)を出し、それを食べにくるアリを利用して、天敵のテントウムシを追っ払わせるというしたたかさ…。

 そんな最凶の害虫を打ち負かす! と息をまき、暇を見つけては指先にご飯粒をつけて、ピーマンの若葉についたアブラムシをひたすらペタペタとってはつぶす*毎日です。梅雨が明けたころには立派なピーマンを皆さんにお届けしたいです。(友亮)

 

*若葉についたアブラムシを指で潰すと葉っぱが傷んで木が弱るので、ご飯粒ペタペタに行きつきました。